『ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ』稲葉陽二 そりゃ世間づきあいは大事ですよね

ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ (中公新書)

ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ (中公新書)


読んでみたがイメージと違って少し物足りなかった。

ソーシャル・キャピタル、訳せば社会関係資本。この本を読むまでは実際のところ何を指し示しているのか知らなかった。ボクが漠然と思い描いていたのは、社会一般に共有されている規範、モラル、商習慣など。または教育や識字率のような無形インフラといったところだった。本書で挙げられているソーシャル・キャピタルの3要素が「信頼」「規範」「ネットワーク」なので、全くの見当違いではない。しかし、本書でのメインは3つのうちの「ネットワーク」。副題からも察せられるが、「昔は人同士の絆があったけれど、最近じゃ格差とかでだいぶ希薄になってしまいました。地域のコミュニティとか大事にしたいですね。」というトーンが色濃い。

また、なにがソーシャル・キャピタルを形成できる要因なのか、逆にソーシャル・キャピタルがあるとどんな良いことがあるのかが、分析されてはいるがイマイチ漠然としている。それは分析自体の難しさによるところが大きいのだが、時間軸(現代)・地理文化軸(日本)のとり方の狭さが、ただでさえ難しい、無形の社会現象を考察することを窮屈にしているんじゃないかと思う。

例えば、敢えて定量的な分析から離れて、歴史的には江戸時代やそれ以前まで遡ってみたり(ちがう学問になっちゃいますか?)、地理的には、(まったくやっていないわけじゃないが)欧米と比べたり、貧困の罠にはまったような途上国と比べたりして、もっと大きな文脈の中に置いてやれば面白くならないか。実践に結び付けようという意図はあるだろうが、日本の一地方のフィールドワークだけで何か有意義なことを言おうとしても限界がある。

ボクの興味と、この研究の目指している方向とが違うだけなのでイチャモンかもしれませんが。