『ミッドウェー海戦』森史朗  本筋から少しはずれた感想も含め

ミッドウェー海戦 第一部: 知略と驕慢 (新潮選書)

ミッドウェー海戦 第一部: 知略と驕慢 (新潮選書)

ミッドウェー海戦 第二部: 運命の日 (新潮選書)

ミッドウェー海戦 第二部: 運命の日 (新潮選書)


ミッドウェー海戦といえば太平洋戦争の流れを変えた戦い。まだ日米両軍の戦力はほぼ互角だったが米側の圧勝に終わったため、なにが明暗を分けたかを解き明かそうと多くの言説がみられる。本書は2012年刊と比較的あたらしい本だが、両軍の公式記録だけでなく著者が長年にわたって行ってきた関係者へのインタビューを元にしており、海戦の推移を大局的な観点、および当事者の思いの両面からつづっている。

本書は、わりと有名な「運命の5分間」を参謀らによる責任逃れの作話として退けており、南雲司令部の慢心*1や優柔不断さを主な敗因としている感じがある。だが個人的には、ひとつひとつの経緯を追っていくと、むしろ錯綜した「戦場の霧」の中でのちょっとした運が勝敗を分けた*2感が強くなった。

やや記述も錯綜していて分かりにくいところがあるのが残念だが、臨場感をもってミッドウェー海戦の様子を伝えてくれる本である。


ところで、本筋のミッドウェー海戦とは直接関係ない記述に引っかかるものがあった。

真珠湾攻撃では、日本軍が戦艦軍を沈めただけで満足し、第二波攻撃を送り込んで石油タンクなどの地上施設を破壊しなかったのが失策視されることがある。たしかに、そのときに地上施設までしっかり破壊しておけばミッドウェーに米空母が3隻揃い踏みすることもなかったかもしれないのだ。

この件については単に南雲司令部、特に草鹿参謀長の消極姿勢に帰する文章をどこかで読んだ記憶があるのだが、本書によれば、造船工場や石油タンクを攻撃目標にしなかった理由として、民需施設があるかもしれず「国際法違反になる恐れがある」として、爆撃目標としないよう攻撃隊員たちに指示をしていたというのだ。重慶爆撃で批判にさらされたことが影響しているのだろうが、後に米軍が本土をどれだけ爆撃したかを思えば、なにを悠長なことを言っているのかとの思いを禁じえない*3

たしかに、日本の当初の戦争プランが、緒戦で優位に立ってからうまく講和に持ち込む、といったものであったことを思えば、無差別爆撃により必要以上に敵愾心を煽るのを避けたい気持ちは分かる。だがなお、圧倒的に優位に立っていればそういう限定的な戦争というプランもありなのだろうが、相手が力で上回る時に及び腰で戦争をしてどうにかなると思うのはおよそまともな状況判断ではない。ガキ大将に刃向かうものの、相手が怖いので怒らせないように遠慮するが、遠慮の甲斐もなく結果的にボコボコにされるようなものか。

ミッドウェー作戦にしても、仮に成功したところでハワイ攻略までできるかは全く不透明であり、あらゆる見地からいって「やってはいけない戦争」だったと思うことしきりだ。

*1:本書第一部のタイトルにもなっている「驕慢」だが、たしかに真珠湾攻撃前の悲壮感と比べると、ミッドウェー時の連合艦隊は少し調子に乗っていたようだ

*2:米艦隊司令官スプルーアンスも「われわれは幸運だった。あの勝利は偶然のものであり、日本海軍は運が悪かった。」と語っているが、本書を読むと単なる謙遜や社交辞令ではない気がする。

*3:無差別爆撃の倫理的な当否は措くとしてだが