『新しい市場のつくりかた−明日のための「余談の多い」経営学』三宅秀道  優しくなくては新しい市場はつくれない

新しい市場のつくりかた

新しい市場のつくりかた


はじめのほうは「それなりのことは書いてあるが新味がないし、もったいぶった書き方でタルい本だな」と思いながら駆け足気味に呼んでいた。技術神話を捨てて新しいニーズを発明しろって、それができれば結構だけれど実際できるかは別問題。顧客思考が大事だとか、マーケティングができてないと技術があっても云々なんて話は、それこそ耳タコものである。

しかし読み進めるうち、大きな組織の病弊について話が至ったあたりから、サラリーマンの心のやわらかいところにグサリと突き刺さるような感じがしてきた。相変わらず、そんなに新味のある話ばかりではない。だが、いま自分が会社で抱えている閉塞感のあまりにもど真ん中に命中するのだ。本書で訴えられていることは商品開発だとか事業企画だとかをやっている人にばかり当てはまることではない、会社という組織で働く多くの人々に思い当たる節があるのではなかろうか。

印象に残った部分のうち2か所だけ引用する。

社会のダイナミックに変化する可能性を見くびると、こんなにも仕事は安易になります。そうした組織では何が発達するでしょうか。それぞれの個人の情報を取捨選択するフィルターが、どんどん今日の仕事のために特化していきます。(略)効率もどんどん上がります。そして、知らないうちに起きている社会の変化からどんどん目を背けることになります。 p.672

大きい立派な組織に属していて、しかも、近年新しい価値を産み出せていないと嘆く人と話していると、製品開発についても諸分野にいろいろと詳しい方だなと思いますが、どれだけ話しても、まだこの「言葉が追いつかない」ような感覚が私に感じられにくいのです。「言葉にしにくいが新しい」存在に話題が至らないことが多いのです。この方は「まだ何と呼んでよいかわからないくらいの新しいネタ」を扱われた経験は乏しいのではないかと思わされることが、たびたびです。 p.707

分かっているつもりのことなんだが身に沁みる。

シーズ先行でニーズが出てくることだってよくあるだろうとか、こまかい点で言いたいことはあるのだが、最後まで読みとおしてしまえばあまり気にならない。スマートな本ではないが、組織の一員としてついタコツボ化しがちな人々には一読の価値があるだろう。