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2013年11月に読んだ本

宿屋めぐり (講談社文庫)

宿屋めぐり (講談社文庫)

『パンク侍・・・』や『告白』のあたりで芸風がすっかり固定したようだ。相変わらずの目くるめく町田節。特にこの本は、主人公の道中のドタバタぶりや、展開の目まぐるしさが際立っている。ページをめくらせる力はめっぽう強い。

「主」(最初は「あるじ」かと思っていたが、やっぱり「しゅ」と読むんでしょうな)という存在が、この波乱万丈の物語を唯一つらぬく背骨になっている。しかし、いったいなんなんだろうなこれは。こんな話をよく次から次へと書けるものだよ。


建設業者

建設業者

滋味に富んだインタビュー集。台詞がよければ写真もよい。

いかにも職人肌らしい人から、そうでもない人まで。でも皆さんにそれぞれの職業倫理があり、仕事への思い入れがあり、歩んできた職業人人生がある。

若い自分にいくつかの仕事を渡り歩いてから、いまの仕事に落ち着いた人が多い。親の伝手で他所の釜の飯を食っていた人もいるが、あてどもなく職を転々としていたような人もいる。時代が違うとは言え、そうした人を吸収する力が社会になければどうにも世知辛くなる。

また、建築というものがいかに多くの種類の職人たちに手がけられて初めて完成するかもよく分かる。職種間のヒエラルキーみたいな話も面白い。このインタビュー集には収められていないが、現場監督という職種の人の声も聞いてみたくなる。現場監督以外に、いわゆる典型的な大工(鋸や鉋で仕事をするような木工の)も本書ではインタビューされていない。鉄骨工や型枠大工は登場するのに偶然だろうか?しかし、現場での「偉い人」として、他の職種の目から語られてはいる。

多くの職種が異口同音に、よい職人は「段取り」を見れば分かると言う。また、周囲への気配りが肝要とも言う。自分の専門だけでなく現場全体のイメージを持っていなければ十分な段取りはできないだろう。様々な職人が働いている現場で、それが周囲への気配りへとつながることも必然。会社員も、まあ一緒だ。


宇宙兄弟(22) (モーニングKC)

宇宙兄弟(22) (モーニングKC)

贅沢をいうようだが少しマンネリ気味かしら。一定のクオリティーはあるけれどね。もうムッタに早いところ宇宙にいってほしい。


メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 (講談社文庫)

メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 (講談社文庫)

朝日新聞記者によるドキュメント。前半が事故当時の官邸を中心とした状況で、後半がそれに続く東電救済、原子力政策を巡る駆け引き。全般に抜きがたい朝日臭みたいなトーンがたちこめて、いちいち仄めかされる価値判断がうざいのだが、直接の関係者に多く聞き取りをしていて当時の雰囲気(特に官邸の)が伝わってくるところは良かった。

ところで、いろいろな証言のなかでいちばん「おおっ」と思ったのはこれ。

「菅さんは何でも自分でやりたがる人に見られるのですが、実は意外に他人にゆだねる人です。それで、菅さんから見て良い判断を、その人が主体的にしてくれることと期待する。だからギリギリまで任せきりで。ところが自分のまったく想定外のものを、任された人が持ってくると、菅さんは『違うだろう』とひっくり返してしまう。それで相手を怒らせてしまう。怒って離れていく人は、だいたいこのパターンなんです。」 by下村内閣審議官(当時)

うーん、なんだか分かる。


理科系の作文技術 (中公新書 (624))

理科系の作文技術 (中公新書 (624))

単なる作文技術にとどまらず、人へ情報をつたえることの難しさを教えてくれる。さらには仕事にとりくむ姿勢もたいへん示唆的である。細部をおろそかにしてはならない。

「結論を先にかく」など、著者の主張はだいぶ広くうけいれられるに至っているようだ。


鹿男あをによし (幻冬舎文庫)

鹿男あをによし (幻冬舎文庫)

『坊ちゃん』みたいだと思って読んでいたら、真正面からマドンナと来た。

奇をてらったようでいながら物語のつくりがカッチリとしていて悪くない。キャラといい伏線といい成長小説的なストーリーといい紋切り型みたいなところがあるけれど、基本を外さないという感じを受ける。剣道の試合のシーンなんか良かった。


ご先祖様はどちら様

ご先祖様はどちら様

著者がおのれのルーツをたどる顛末記だが、家系というものについてのなかなか深い考察を含む。たいていの人にとっては、何代かさかのぼれば過去を生きた人々の痕跡は儚く消えうせており杳としてつかめない。先祖の数は代をさかのぼるごとに2倍になる(とりあえず重複を考えなければ)ので20代さかのぼると100万人、27代前には1億人を越えてしまうことからすれば、大体誰の先祖にも立派な人、有名な人がいておかしくない道理ではある。だいたい武士として系図を引けば、清和天皇桓武天皇につながってしまうわけで。

著者が、戦時下であった自分の父母の子供時代や、子供3人に先立たれた先祖について思いを馳せるところはしみじみする。


怪談ですな。旅僧がむかしの体験を作者に語ってきかせるという趣向。

内容はともかく、おびただしく振られたルビを括弧書きにくくりだしているのは読みにくい。他にやりようないのかね。


渚にて【新版】 人類最後の日 (創元SF文庫)

渚にて【新版】 人類最後の日 (創元SF文庫)

オリジナルは1957年刊行。原題"On the beach"は、巻頭に掲げられたT.S.エリオットの詩からとられているが、巻末解説によれば「陸上勤務となって」という慣用句でもある。

核戦争後の世界を描くというのはSFとしてはステレオタイプでもあるが、1957年という年代を考えると、本作はそのはしりだったのだろうか。どちらかといえば牧歌的ですらある、取り残されたオーストラリアの光景にはじまり、物語が淡々と進む。たいした仕掛けもないまま終盤へ向けて息の詰まるような感じになってくのは見事。ここまで枯れた味わいのSFというのも珍しい。しかしながら、ある状況を設定してみて、そうした状況のなかで人々がどう行動するかを描く、というのはSFの王道でもある。

メアリの言動がなんだかうちのカミさんを思わせてラストがますます切なくなる。


(001)憧 (百年文庫)

(001)憧 (百年文庫)

図書館でこのシリーズを発見。有名な作家でも読んでいない人も多いし、短編ばかりで読みやすそうだし、セレクトのセンスも良さそうなので1冊ずつ攻めていこうと思う。

第1集は3人いずれとも夭折した作家。収録作はいずれも独白調。太宰の技巧が光った。