『国土と日本人』大石久和 オランダだけじゃない、日本だって日本人が作った

国土と日本人 - 災害大国の生き方 (中公新書)

国土と日本人 - 災害大国の生き方 (中公新書)


元建設官僚による本。日本の厳しい自然条件と、人の手で国土をどうやって今の姿へ作り変えてきたかが主題。国土に関するデータで気づかされる点もあるが、政策提言的なところは「日本経済が停滞しているのも公共事業を削減したせい」といった具合(一抹の真実を含むかもしれないが)の我田引水の論調で説得力がイマイチ。国土を中心に幅広い記述があるが、歴史、経済など専門外のところはあまり論拠が明らかでなく、データの扱いも誘導的であったりするので注意して読む必要がある。

いくつかの感想を。

国土開発の歴史

古くからの開発の上に現代の日本も成り立っている。古墳時代にまで遡るため池の造成や、江戸時代の新田開発、関東平野の治水などだ。また現代は、化石燃料や外材のおかげではあるが、量的には400年ぶりの豊かな森林に恵まれているという。

日本の風土の難しさ

可住面積の少なさや、自然災害の多さはつとに知られているところだ。ただでさえ少ない平野部が多数の河川で仕切られていることや、周囲の地面より高い天井川・地下水位の高さなど、より掘り下げて語られる。

自分の数少ない海外経験からだが、欧州でもアメリカでもタイでも、日本ほど土地が高くなったり低くなったり忙しい地形の国はないと思う。韓国や台湾ですら風景が大陸的に感じる。イタリアは少し日本に近いかも。

土地保有概念の強さ

日本は諸外国に比べて「自分の土地=何をどうしようが誰にも文句を言われる筋合いなし」という土地保有概念が強いそうな。印象論でしか語られないので実際どうなのか分からんが、他でもそんな話を読んだような記憶がある。ただし建設官僚の立場からなので多少割引すべきか。

均衡発展v.s.重点投資

日本の公共事業の問題だと思う。本書もどちらの立場かはトピックごとに揺れて定まらない印象。個人的感想としては、需要が爆発する高度成長期には均衡発展に意味があったが、低成長・人口減の時代には、「戦略を持った」=「捨てる所は捨てた」国土設計が必要なのではないかと思う。政治的にまったくできていないですがね。成田と羽田をリニアで結ぶなんて面白そうだが。。。

既存インフラの維持・補修

最後に少しだけ触れられる。ここにこそ大きな課題とチャンスがあるのではないか。