『Made by Hand』マーク・フラウエンフェルダー DIYの哲学

Made by Hand ―ポンコツDIYで自分を取り戻す (Make: Japan Books)

Made by Hand ―ポンコツDIYで自分を取り戻す (Make: Japan Books)


「Maker」というDIY雑誌の編集長による本、と言ってもハウツー本の類ではない。もともとフリーライターで、手仕事も好きだが「Maker」の仕事をするまで特にDIY派でもなかった著者のDIY入門体験記だ。もちろん、これまで著者がやってきたDIYの数々(菜園、エスプレッソ・マシーンの改造、ニワトリ飼育、ギター作り等々)は解説される。しかしこの本の主眼は、何故DIYをやるのか、DIYによって我々の人生の何が変わるのか、などの意識面にかかわる問いかけなのだ。

現代人は自己家畜化をしている生き物だと言われることがある。自ら作り出した環境=文明社会にすっかり適応してしまって、普通の現代人は野生で生きていくことはできない。ジャレド・ダイアモンドが『銃・病原菌・鉄』の冒頭で書いていたが、ダイアモンドの個人的経験からすると石器人的な暮らしをしているニューギニア人の方が、一般に西洋人よりも賢く感じられると言う。西洋人はボンヤリしていても生き残れるが未開のニューギニア人は賢くなければ生き残れない。遺伝的にも後天的にも、ニューギニア人の方に知性を向上させるような圧力が強く働いてるのだろうとの仮説だ。ダイアモンドの推論の当否はさておき、靴紐が満足に結べなくたって(これボクです。往々にして縦結びになる)当たり障りなく生きていけるのが現代人である。でも、そんな現代人には何かが欠けていないだろうか?

大げさに聞こえるかもしれないが、DIYとは、手を動かして作業する心静まる境地を手に入れること、自分と世界とのつながりを深く見つめなおすこと、失敗を恐れずにむしろ失敗から学ぶこと、ひいてはより豊かで有意義な人生を手に入れることだと著者は主張する。それは声高に語られるわけではない。淡々とユーモアを交えて語られる体験談から、読者はおのずと納得を得るだろう。また、著者は原理主義者でないので、DIYと便利な現代生活とのあいだを常識的な範囲で折り合いをつけている。単に著者と家族の奮闘ぶりや、日米の暮らしの違いを感じながら読むだけでも十分楽しいと思う。