サモトラケのニケ など

パリへ出張した際、1日ほど空き時間が作れた。はじめてのパリであったので素直にルーブル美術館へ行ってきた。

普段は美術館などあまり行かないが、こういう機会だと足を運ぶ気になる。いったん行ってみると、貧乏性のせいで、あれもこれもと見て回らないと何だか損をした気分になってしまう。昼食をはさんで4時間くらいは美術館で過ごしたろうか。けれど常設展の1/3くらいしか見ていない気がする。『地球の歩き方』を参考にした程度でわりと漫然と見物してきたので、帰ってきてから美術館のwebサイトを眺めて「あれも、これもあったのか。見逃したー」と嘆いている次第。

で、ダントツで印象に残ったのはこちら。

『サモトラケのニケ』*1である。

「教科書で見たことがある」と同行者は言っていたがボク自身はその記憶はない。ともあれ有名な彫刻だ。1863年にギリシャのサモトラキ島で発掘されたもので、正確な由来は分かっていないが紀元前の建造物らしい。

これがデカくて高さが3mくらいある。しかも大きな階段を上がったところに台座を据えて展示してあるので、さらに迫力が増している。

この強い印象はなんなのだろう。ちょっと考えたのだが、彫像自体は時の経過により頭などが失われている一方で、その風にあらがうような躍動感は失われていない。このコントラストが時間を越えた不思議な生命力を感じさせるのではないか。

あまり素人考えを巡らしても仕方ないけれど、この彫像のインパクトはやっぱり万人向けのようで、多くの人が周りで記念撮影をパシャパシャとやっていた。*2



なお、出かけるにあたってこの本で少し予習は試みた。

名画の言い分 (ちくま文庫)

名画の言い分 (ちくま文庫)


「西洋美術は見るものではなく読むものだ」だそうである。特に近代より前の作品には必ず何らかのメッセージが込められているとのこと。作品の描かれた(作られた)当時の時代背景を押さえておかなければ、見ることは出来ても、読み解くことはできない道理なのだ。

では、西洋美術鑑賞のためにはどんな知識を押さえておけばよいのか?基本的にはキリスト教のようだ。ヨーロッパ中世では絵画と言えばすなわち宗教画のことである。ルネッサンスから近代にかけて、肖像画、歴史画が現れて、そして最後に静物だの風俗だの風景だのが描かれるようになる。宗教画方面の知識に加えて、近代に向けてキリスト教要素が徐々に薄まっていく社会背景(宗教革命、ブルジョアジーの台頭など)や各国の歴史を押さえておけば、それなりには読み解けるといった所か。もちろん『ニケ』みたいにキリスト教以前の古代ギリシャであれば、神話の知識があると良い。

近代より前の西洋美術に限らず、美術が時代背景、社会的文脈や技法的制約からフリーであることはないと思う。ただ、西洋美術については資料も豊富で、研究も進んでいるため、読み解くための下地が十分にあるわけだ。この本にあるような背景知識の有無で美術館巡りもだいぶ違った経験になるだろう。実際にボクの場合も、いろいろな「実物」にお目にかかるにあたって予習の甲斐はソコソコあったような気がする。*3

なお、本書は初歩的な背景も含めた西洋美術の歴史を300ページ足らずの文庫本で縦断しようという試みなので、個々の作品に対する掘り下げは限定的である。仕方ないことではあるが、その点は少し物足りないかも。

*1:画像は[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%A2%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%B1%E3%81%AE%E3%83%8B%E3%82%B1:title=ウィキペディア]より

*2:日本の美術館って、そういうのないですよね

*3:でも気に入ったのは、どちらかと言えば背景知識無用の『ニケ』なわけですが