『MAKERS』クリス・アンダーソン  DIY×オープン・イノベーション

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる


最近、3Dプリンタという名前を見かけるようになった。CADソフトなんかでデザインした3Dの図案を、実際にプラスチックを積み重ねたりして作ってしまう装置らしい。そんなモノいったい何に使うんだろうねー、と思っていたら、これこそ「メイカームーブメント」なのだ!と解説してくれるのが本書。単なる日曜大工の域を超えて、ビジネスまで変えてしまうというのだ。

まず設計図が標準化されているので、自分で作ったデザインを製造受託業者に作らせることが出来る。中国にはその手の業者がたくさんあるらしい。以前ならば、ちょっとしたロットでもモノを作ろうとすればそれなりの設備を構えなけらばならなかったが、今や必要な数を外注できるわけだ。「デスクトップ」工作機械なので、お好みによっては多少の投資をして自分で作ったってよい。しかもデジタル工作機械は小ロットでも製造コストが変わらない。逆に言うと大量生産によるコストダウンには適していない訳だが、メイカーたちは端から大量生産は志向していない。数は少なくてもロイヤリティの高い顧客を相手にすれば良いのだ。もちろん、それを可能にしたのはインターネットである。

実際に、こうしたツールを使ってビジネスをやっている例がたくさん紹介される。デザインファイルを送れば受託製造をやってくれるところ、レゴのオリジナルパーツを作る会社、小ロットの電子部品生産、さらには自動車を作ろうという人たちまでいる。著者自身も、趣味から始まった自動操縦の航空ロボットの会社をやったりしている。もっとも重要なキーワードは「オープン」だ。必要な技術を持っている人をネットで募ったり、デザインを公開して顧客が改良に参加できたりと、大企業のリジッドな組織ではできないやり方である。

さて、メイカームーブメントは著者が言うように世界を変えるようなインパクトがあるだろうか?例えば、製造業を先進国に呼び戻して多くの雇用を創出するような。われわれの生活にメイカーたちの作ったニッチな製品がどんどん入ってくる、または少なからぬ人が自らメイカーになるような。

正直、分からん。しかしながら面白いのは確か。個人的には工作系は苦手なのだが、それだけにこういう話には惹かれてしまう。ただ「オープン」なアイデア交換は知的好奇心から来る自発的なものなので、著者のやっているドローンみたいな趣味系では起こしやすいが、もう少し渋めの産業系では、そうもいかないかもしれない。

著者は、ニッチなモノづくりによって製造業の先進国回帰を予想しているが、ワタシには逆に新興国の方に広がるのが早そうに思える。携帯電話やネットが急速に広まったようにだ。新興国は産業分野での既得権益のしがらみがあまりないからか、または知的財産保護の観念が薄いせいか、オープンということに関しては肌があうような気がするんだよな。それに元手不足の度合いが大きいほど、少ない資本でできるモノづくりへのニーズは高いように思える。

前後してこんな本も読んだ。

適正技術と代替社会――インドネシアでの実践から (岩波新書)

適正技術と代替社会――インドネシアでの実践から (岩波新書)


クリス・アンダーソンとだいぶノリは違うが、「ブラックボックス化したモノ作りを我々の手に取り戻そう」というマインドは同じ。インドネシアで排水処理をしたり、バイオマス・ボイラーを作ろうとしたりといった体験をもとにして、途上国で自前で賄えて、さらに環境にやさしい技術について語る本だ。この著者は自らがエンジニアなのだが、専門外の知識については大学や企業に強力を請うており、一種のオープン・イノベーションをやっている訳でもある。

資本主義経済への反省みたいな方向に行っているので印象こそ異なる本だが、アンチ権威的な気風は、WEB系と左派系とで意外に共通していることに気づく。