『再訪 ミルグラムの服従実験』 を再訪
なかば打ち捨てていたブログの、2年近く前の記事に山形浩夫氏のコメントがついた。これは望外の喜び。とりあえず書いてみるものだな。Twitter経由で拡散したらしくけっこうな数のブコメも頂戴し、あらためて勉強になった。せっかくなのでメモしておく。
まず、このジーン・ペリーによる"Behind the Shock Machine"側の信憑性についてだが、
id:ophites これはこれで疑わしいと思ってしまう。数十年前の実験で関係者の記憶はどれだけ正確?(特に、自分が残忍な判断をしたと認めたくない被験者の場合) (後略)
これは確かにその通り。Pacific Standardの紹介記事の記述をよく読むと、被験者が実験の設定を見抜いていたと証言したのは1人だけっぽい*1。後述のAmazonレビューでも、同様の批判がされている。
つづいて検証の難しさについて
id:asamaru ミルグラム実験やスタンフォード監獄実験は、現代の研究倫理コードでは完全にアウトだから、再実験ができないんだよね。だから、当時の実験精度の問題が浮上する。
この方面に詳しそうな方。
一方でコメント欄にて、追試をこころみた2009年の論文を紹介してくださった方もいる。
http://www.scu.edu/cas/psychology/faculty/upload/Replicating-Milgrampdf.pdf
この論文では倫理コードを守るためにミルグラムの実験内容を修正しているのだが"But my partial replication of Milgram’s procedure suggests thataverage Americans react to this laboratory situation today much the way they did 45 years ago."とのこと。ただし、ある程度の段階まで電気ショックを与えた被験者は最後のサクラが気絶するようなレベルまで電圧を上げつづける傾向にあるとの理由で、最初にサクラが実験中止を要求する段階までで実験を打ち切るデザインになっている*2。素人目には、ミルグラム実験のいちばんセンセーショナルなところをばっさり切り捨ててしまったように見える。
さらにこのようなブコメも
id:masahal (略)当時驚いて追試を行った研究者もたくさんいたこととか考慮してる?
その当時ならば倫理コードも気にせず追試できただろう。やっぱりクリアな結果が出たのだろうか?
コメント欄の方は、Amazonのレビュー欄についても言及されている。ミルグラムの学生だったという人までレビューを書いており読み応えがある。こちらは捏造云々の事実関係よりも、ジーン・ペリーによるミルグラムの解釈に異議を唱えている感じ。
『ブランカニエベス』 サイレント侮るべからず
久しぶりに劇場で映画を見たよ。見たのは年末だったけれどよい映画だったし記録しておこう。
きっかけは毎日新聞日曜版の映画評で珍しくべた褒めしていたこと。いや期待通りであった。サイレント映画なんだが、役者の表情・身振りやら、音楽やらで、むしろ伝わりすぎるくらいにストーリーが伝わってきた。主人公がはじめて闘牛場に立つシーンなんか鳥肌が立ったくらい。
タイトルのとおり「白雪姫」をベースにご当地スペインの闘牛を絡めた、まあ貴種流離譚といったところか。両親を失っているという設定といい、ラストのえもいわれぬ後味といい、同じくスペインの『パンズ・ラビリンス』を強烈に連想した。スペインってやっぱりヨーロッパの主要国とはまた違ったテイストを持っているのか。
どうでもいい話だが、イジワル継母(これもいい演技)が久本雅美に見えてしょうがない。
2013年に読んだ本
ようやく月次のまとめが片付いたので年度のベストをば。
新刊部門
例によって前年の10月以降の出版であれば新刊ということで。

- 作者: 建築知識編集部
- 出版社/メーカー: エクスナレッジ
- 発売日: 2012/10/01
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- 作者: 三宅秀道
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2012/10/12
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こうの史代の『ぼおるぺん古事記 三: 海の巻』は、去年前2巻をすでに取りあげてしまったため対象外ということで、新刊部門は以上。
新刊以外部門

- 作者: 花沢健吾
- 出版社/メーカー: 小学館
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日露戦争、資金調達の戦い: 高橋是清と欧米バンカーたち (新潮選書)
- 作者: 板谷敏彦
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- 作者: 井伏鱒二
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- 作者: 大竹聡
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- 作者: 恩田陸
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- 作者: 中井久夫
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2013年12月に読んだ本

- 作者: 村井吉敬
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「台湾養殖業はさんざん日本に振り回されて腹は立ちませんか」と聞いて、「いまは海外市場は日本だけでなく世界中に広がっているのでどうとも思わない」とか言われたのが印象的だったとか。。。

- 作者: 松浦玲
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一応は名の通った人物ではあるものの、幕末では比較的地味な存在ともいえる小楠なのだが(よてオビも龍馬や晋作の思想的源流を謳ってアピールしている)、その考えていたことのスケールの大きさというか、ちょっと時代の枠をはみだしているところが面白い。あまりにも理想主義的な人物なのだが、反面、けっこう実際の政治のなかで折り合いながら活動しているところも興味深い。その人物の面白さもあるし、そんな人物が表舞台で腕をふるえた幕末という時代の面白さもある。

- 作者: 吉田友和
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賞味期限は短そうだし、これくらいの内容ならググってなんとかしなさいという見方もあろうが、こうやって旅という軸で一冊にまとまっている価値はあると思う。航空券の仕組みとかよく知らないので改めて解説してもらうと意外とありがたい。なかなか旅慣れしない身としては旅支度の話なんかも期待していたのだが、「語り始めたらキリがないほど奥深い」とのことで、ごくサラリとだけ。

- 作者: 花沢健吾
- 出版社/メーカー: 小学館
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- 作者: 伊藤計劃
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しかし病気で死を意識しながらこういうのを書いたっていうのはなんだかドッシリくる。健康云々ってところじゃなくて、ヒトの「意識」を問題にしているところが。

- 作者: 幸村誠
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- 作者: 萩尾望都
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2013年11月に読んだ本

- 作者: 町田康
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「主」(最初は「あるじ」かと思っていたが、やっぱり「しゅ」と読むんでしょうな)という存在が、この波乱万丈の物語を唯一つらぬく背骨になっている。しかし、いったいなんなんだろうなこれは。こんな話をよく次から次へと書けるものだよ。

- 作者: 建築知識編集部
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いかにも職人肌らしい人から、そうでもない人まで。でも皆さんにそれぞれの職業倫理があり、仕事への思い入れがあり、歩んできた職業人人生がある。
若い自分にいくつかの仕事を渡り歩いてから、いまの仕事に落ち着いた人が多い。親の伝手で他所の釜の飯を食っていた人もいるが、あてどもなく職を転々としていたような人もいる。時代が違うとは言え、そうした人を吸収する力が社会になければどうにも世知辛くなる。
また、建築というものがいかに多くの種類の職人たちに手がけられて初めて完成するかもよく分かる。職種間のヒエラルキーみたいな話も面白い。このインタビュー集には収められていないが、現場監督という職種の人の声も聞いてみたくなる。現場監督以外に、いわゆる典型的な大工(鋸や鉋で仕事をするような木工の)も本書ではインタビューされていない。鉄骨工や型枠大工は登場するのに偶然だろうか?しかし、現場での「偉い人」として、他の職種の目から語られてはいる。
多くの職種が異口同音に、よい職人は「段取り」を見れば分かると言う。また、周囲への気配りが肝要とも言う。自分の専門だけでなく現場全体のイメージを持っていなければ十分な段取りはできないだろう。様々な職人が働いている現場で、それが周囲への気配りへとつながることも必然。会社員も、まあ一緒だ。

- 作者: 小山宙哉
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- 作者: 大鹿靖明
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ところで、いろいろな証言のなかでいちばん「おおっ」と思ったのはこれ。
「菅さんは何でも自分でやりたがる人に見られるのですが、実は意外に他人にゆだねる人です。それで、菅さんから見て良い判断を、その人が主体的にしてくれることと期待する。だからギリギリまで任せきりで。ところが自分のまったく想定外のものを、任された人が持ってくると、菅さんは『違うだろう』とひっくり返してしまう。それで相手を怒らせてしまう。怒って離れていく人は、だいたいこのパターンなんです。」 by下村内閣審議官(当時)
うーん、なんだか分かる。

- 作者: 木下是雄
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「結論を先にかく」など、著者の主張はだいぶ広くうけいれられるに至っているようだ。

- 作者: 万城目学
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奇をてらったようでいながら物語のつくりがカッチリとしていて悪くない。キャラといい伏線といい成長小説的なストーリーといい紋切り型みたいなところがあるけれど、基本を外さないという感じを受ける。剣道の試合のシーンなんか良かった。

- 作者: 高橋秀実
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著者が、戦時下であった自分の父母の子供時代や、子供3人に先立たれた先祖について思いを馳せるところはしみじみする。

- 作者: 泉鏡花
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内容はともかく、おびただしく振られたルビを括弧書きにくくりだしているのは読みにくい。他にやりようないのかね。

- 作者: ネヴィル・シュート,佐藤龍雄
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核戦争後の世界を描くというのはSFとしてはステレオタイプでもあるが、1957年という年代を考えると、本作はそのはしりだったのだろうか。どちらかといえば牧歌的ですらある、取り残されたオーストラリアの光景にはじまり、物語が淡々と進む。たいした仕掛けもないまま終盤へ向けて息の詰まるような感じになってくのは見事。ここまで枯れた味わいのSFというのも珍しい。しかしながら、ある状況を設定してみて、そうした状況のなかで人々がどう行動するかを描く、というのはSFの王道でもある。
メアリの言動がなんだかうちのカミさんを思わせてラストがますます切なくなる。

- 作者: 太宰治,ラディゲ,久坂葉子
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第1集は3人いずれとも夭折した作家。収録作はいずれも独白調。太宰の技巧が光った。
2013年10月に読んだ本
バタバタしているうちに年が明けてしまいましたよ。正月休みのラストは、諸般の事情によりひとり静かにすごすことに。久しぶりにブログの手入れをしようかと。
いそがしい、いそがしいと言いつつそれなりに本は読んでいましたな。

- 作者: 江畑謙介
- 出版社/メーカー: 青春出版社
- 発売日: 2008/09/02
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納得したり、そんな軍事力いらんだろうと思ったりと色々かんがえたが、とりあえず敵基地攻撃能力はそんなに簡単なものではないようだ。

- 作者: 野矢茂樹,西村義樹
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2013/06/24
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社会心理学講義:〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉 (筑摩選書)
- 作者: 小坂井敏晶
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哲学にまで遡ってタコツボ化せずにビッグ・ピクチャーを描こうとする心意気やよし。しかし、そうするとどうしても議論は大味になる。バランスというか、なんだか難しいね。

- 作者: 花沢健吾
- 出版社/メーカー: 小学館
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- 作者: ダニエルカーネマン,Daniel Kahneman,友野典男,山内あゆ子
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サードカルチャーキッズ 多文化の間で生きる子どもたち (クロスカルチャーライブラリー)
- 作者: デビッド・C.ポロック,ルース=ヴァン・リーケン,長崎訓子,嘉納もも,日部八重子
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TCKの特徴をいろいろ挙げているが、異国文化を知っているが自国文化に無知なところがある、など両論併記&総花な感じである。まあTCKである以前に普通の人間であると言っているとおりで、TCKをひとくくりにはできなさそうだ。ただ、様々なケースを引いているので、実践的な関心を持って読めばいろいろとヒントもあるかもしれない。

- 作者: 幸村誠
- 出版社/メーカー: 講談社
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- 作者: 大竹聡
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東京都下育ちである点を含め、酒に対するスタンス(ワタクシはここまでのツワモノではありませんが)、若い時分の煩悶(これまたワタクシはそれほどでもないのですが・・・)とか共感することしきり。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか? (ハヤカワ文庫 SF (229))
- 作者: フィリップ・K・ディック,カバーデザイン:土井宏明(ポジトロン),浅倉久志
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