長い目で政策を考える
「会計・監査ジャーナル」が職場で回覧されてくる。ふだんは読まずに次へまわしているのだが、2012年6月号には国際税務に関する座談会があったので読んでみた。
その中で、財務省の浅川雅嗣副財務官(OECD租税委員会の議長をされている)が、けっこう大上段な政策論に触れているのが目を引いた。
ロイヤリティもそうですが、配当を含めてあれだけ源徴税率の引下げをしようと思ったのは、単に税収が増える、減るだけでなく、やはり長期的に日本の貯蓄率が下がると思ったからです。実際、家計貯蓄率は、20年前は17%ぐらいありましたが、今は2%ぐらいに下がってきています。
少子高齢化に伴って、家計貯蓄率が構造的に下がってくると、今後の日本のISバランス上、投資を支えていた国内貯蓄がだんだん目減りしていきます。したがって、同じレベルの国内投資を維持するためには、外国からある程度資本を持ってこなくてはいけないという問題意識がありました。
ですから、日米の場合で申し上げれば、専門的な知識・ノウハウを有するアメリカの企業に日本に来てもらって、その代わりに日本からお支払いするロイヤリティに対しては税金を取りませんという形で、日本に対する対内直投を促進し、国内貯蓄率の低下を補いたいというマクロ政策上のねらいが1つの背景にあったわけです。
この考えに対しては、「国内のお金だってだぶついて国債にしか向かっていないじゃないか」とか、「源徴税率下げたくらいで外資誘致できるのか、マーケットとしての魅力が足りないのが問題」だとか、いろいろ反論も考えられるし、ボク自身も外資導入がこれからの日本にとって重要なテーマとはあんまり思えない。*1しかし、議論の当否は脇において、租税条約ひとつとっても、現場の官僚が長い目で政策を考えているのに改めて感心した。
こんなことは当たり前であって感心するのは失礼かもしれない。でも、「政治主導」が目先も目先のあれこれに振り回されるばかりになっている体たらく*2と比べると、専門家集団が長期的にコミットして政策を考えることの利点も明らかにある。もちろん専門家だけではダメで、素人政治家によるガバナンスとのバランスが大事だが、世論のバランスは素人礼賛に傾きすぎだろう。