『統計学が最強の学問である』西内啓  一般向けの統計学「読み物」

統計学が最強の学問である

統計学が最強の学問である


私事であるが学生時分は社会心理学のゼミに所属していて、統計学とはわずかながらご縁があった。とは言うものの、まじめに統計学を勉強したわけでもなく、卒論に使うデータも得意な友人にプログラムを書いてもらって解析したような次第で、とにかくt検定に放り込んでp値が0.05以下になればそれでオーライ、というのがワタクシと統計学のかかわりであった。「学生のときにもう少し勉強しといてもバチは当たらなかったよな」と思うのは統計学に限ったことでないのだが、特に統計学に対しては、チャンスというか本来勉強すべき義務が目の前にあったにもかかわらずそれをスルーしてしまったので、個人的に引け目みたいなものを感じないでもない。

さて、いま現在も別に仕事で統計とかかわったりとかはない*1のだが、それでも統計学は気になる。実務というか現実世界に近いところで使われているから*2だと思う。数学を今さら勉強しようとまでは思えなくても、なんとなく統計学に関しては、少なくともそのエッセンスは日常でも役立ちそう*3な気がする。

そんな統計学のエッセンスを分かりやすく、そして少々煽り気味に解説してくれるのが本書である。はじめはタイトルにちょっと引いていたのだが、書店に平積みされているのを手にとってみると案外面白そうだったので読んでみることにした。

前半は、ITの進歩によって統計がだんぜん使いやすくなったなんて話題や、サンプリング、因果関係の向き、ランダム化など統計学のイロハ的な考え方を解説している。このあたりは、もともと統計学に馴染みがない人であればけっこう興味深く読めるのではないか。「データ社会を生き抜くためのリテラシー」と言って間違いない。

後半からすこし難しくなって、回帰分析を軸として様々な検定・分析の手法を整理してくれる。個人的には、目からウロコとまではいかなかったが「なんでこんなに似たような検定がたくさんあるんだ?」とボンヤリ抱いていた若き日の疑問を多少は解き明かしてくれた。いろいろな手法の原理や細部にはあえて踏み込まずに設例やグラフだけで解説するので、実際に統計学を学びたい人の「入門書」としてはどうかと思うが、取りあえず感覚だけでも掴みたい向きにはピッタリだろう。

その次には、分野によってけっこう異なる統計学の使い方について。ここもなかなか面白かった。これまた学生時分に「社会心理の統計の使い方は、理系からは『邪道』と言われる」と聞いて、「???」となっていたところをスッキリさせてくれた。

*1:J-SOXで「サンプル数がどうのこうの」って話があったが、統計学を使っているって気分になるほどではない

*2:[http://d.hatena.ne.jp/himaginary/20110125/statistics_and_math:title=こちら]経由で統計学者アンドリュー・ゲルマンのインタビュー参照

*3:最近、実際に出生前診断について考える機会があったのだが、あれもまさにベイズの事前確率の考え方である。予め知っていたおかげでヘンな悩み方はせずに済んだ。