『バイオパンク』マーカス・ウォールセン  やっぱりアメリカ人はDIYがお好き

バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!

バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!

  • 作者: マーカス・ウォールセン,矢野真千子
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2012/02/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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「バイオパンク」だなんて急に言われても何のことだか分からないのが普通。「サイバーパンクみたいな感じ?」と思うと意外に近いかも。

「バイオパンク」のイメージを紋切り型に言ってしまうと、ガレージでやるバイオ研究といったところか。この本ではさまざまな事例が取り上げられている。途上国向けの安価な診断キット、クラウドでのガンのオーダーメイド治療、藻を使ったバイオ燃料開発、インドの農民による遺伝子組み換え作物の違法コピーなどなど。きわめつけはトランスヒューマンというやつで、ヒトの寿命や能力を遺伝子改造で延ばしてしまえという人たちまで。

バイオ研究には莫大なカネと時間が投資されているが、それらが必ずしも成果を挙げていない。ジェネンテック社みたいな成功例もあるがそれは例外的存在。とにかくバイオは金食い虫なのである。そこを個人の小回りを活かしてバイオ研究にかかる材料、機器、作業量をハックし、経済的に「使える」成果を挙げようとするのが、バイオパンクのひとつの狙いだ。

それでもバイオ研究においては、やはり大学、企業等の研究機関がメジャーである現実は変わらない。しかし、著者の見立てでは「パンク」として既成の権威に反発するDIYの精神が大事とされる。次の一節がそれをよく表している。

バイオパンクはいまのところ、大躍進と呼べるような成果は出していない。この先も、おそらくそうした成果は出せないだろう。しかし、彼らはそんなことなど気にもとめずに楽しそうにやっている。彼らは、自分のために科学が何かを実現してくれるのを待つよりも、自分で科学しようと決めた。

このDIY精神はやっぱりアメリカ人ならではだろう。この精神の祖先として『森の生活 ウォールデン』のソローが挙げられている。これは森に入って文明の恩恵を受けずに独りで暮らす試みを書いた本で、アメリカでは有名な古典だそうだ。森の独り暮らしとバイオ研究との間には脈々とつながるDIY精神があるのだ。

ただ、バイオの研究は試行錯誤に時間・コストがかかるため宝くじ的側面もあるようなので、オープンな環境で多数の研究者が取り組むという形が、イノベーションを加速させる可能性はある気がする。イノベーションが加速するほどに安全性はどうしても気になるけれど、その問題にもジャーナリストらしく目配りした記述があり、全体観をつかむのに好適の一冊と思う。

個人的には、遺伝子検査がもう少し安価&有用になれば、自己責任でぜひ受けてみたい。

こちらの「MAKERS」と共通するところの多い本であった。
MAKERS―21世紀の産業革命が始まる