ユニバーサルミュージックの件 『租税研究』記事

ユニバーサルミュージックが更正を打たれた件、『租税研究』2012年11月号に平川雄士弁護士の講演録が取り上げられていた。これまた、ワタクシの以前の記事にはいろいろ思い違いもあったことが判明したので記録しておく。

まず講演録全体の感想からいくと、報道や登記だけをベースにしているとのことで、なにか特別にあたらしい情報が含まれているわけではない。しかしながら法律家らしく事案への税法等の当てはめを丹念に検証されている。結論としては「包括的否認規定を使いましたね」ということは確かなようだが、どのポイントがどう判断されたのかの詳細は、当たり前だがやっぱり報道だけでは分からないようだ。

以下、ワタクシが間違えていたり、改めて認識したりした個別のポイント

過小資本税制みたいな個別規定と包括的否認規定は別物

以前の記事では、包括的否認規定と個別規定(過小資本税制、TP)がセットで適用されるような感じで書いてしまったが、個別規定を当てはめることが可能ならば、敢えて包括的否認規定を持ち出す必要はないみたいだ。言われてみればそのとおり。本件で個別規定の適用がされなかったであろうことは『租税研究』の記事にて詳しく検証されている。

包括否認規定の種類

ワタクシは報道につられて、てっきり組織再編のやつが使われたと思っていたのだが、講演録によると、更正された利払い自体は組織再編と直接の関係がないので、同族会社の行為計算否認規定が使われたのだろうと。どっちだからどうなのかは分からないがナルホドね。

過大支払利子税制

これは2013年度から適用の新しい税制なので本件への適用はないが、もしこの税制が適用ができればおそらくカバーされただろうとして解説されていた。これはいわゆるearnings stripping ruleというやつで、過小資本税制がストックでのDebt/Equityバランスに着目するのに対して、フローでの利益/利払いバランスに着目するものだ。過小資本税制であれば、資本さえ十分払い込めば潜脱できるので、その穴をふさぐことが期待されている。

Debt Pushdown

本件のように、買収資金を調達するための負債を買収対象会社に持たせることで、課税所得と利払いのバランスをとるスキームはDebt Pushdownと呼ばれて、一般的なものだそうだ。もちろん今回は買収と言ってもグループ内再編に過ぎず、全体的に見て租税回避以外の経済合理性が見出せなかったことが問題視されたのだろう。平川弁護士は、過去に包括的否認規定でやられたスキームからすると比較的「ひどい」とは言えないとしているが、グループ内の資本関係を右から左に付け替えるだけの取引にかこつけて貸付を増やしており*1、個人的にはわりと「ひどい」ように思える。ただ、当局がどこに目をつけて否認の理屈を作ったか分からないが、そちらもそちらで理屈が苦しそうな気がする。まあearnings stripping ruleは必要みたいですね。

*1:貸し付けられた会社に「資金需要はなかった」との元幹部コメントも報道されているそうだ